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ITサービスを安定して運用するためのフレームワークであるITILと、素早く柔軟にシステムを開発するアジャイル。ITILは計画的な管理を重視する一方で、アジャイルは変化に素早く対応することを重視しています。そのため、両者は対立する考え方だと思われがちです。

しかし、最新のITIL4ではアジャイルの考え方を取り入れることで、信頼性の高いITサービスを維持しながら、素早いシステム開発や改善が可能になりました。本記事では、ITILとアジャイルの違いや共通点、相乗効果について説明します。

ITILとアジャイルの基本概念

はじめに、ITILとアジャイルの基本概念について説明します。

ITILとは

ITILは、ITサービスを適切に管理・運用するためのベストプラクティスを体系化したフレームワークです。最新バージョンのITIL4では「サービスバリューシステム」を採用し、ITサービスの価値を最大化しながら、より柔軟な運用が可能になりました。また、アジャイルやDevOpsなどの手法と組み合わせやすくなっています。

アジャイルとは

アジャイルとは、ソフトウェア開発やプロジェクト管理において、迅速かつ柔軟に対応するための開発手法です。「スプリント」や「イテレーション」と呼ばれる短い期間で区切り、開発・リリース・改善を繰り返すことで、ユーザーのフィードバックを取り入れながら品質を向上させることを重視する手法です。

アジャイルでは「継続的デリバリー」の考え方も重要です。継続的デリバリーとは、開発したソフトウェアを本番環境にスムーズにリリースできるようにするプロセスで、アジャイルの短い開発サイクルと組み合わせることで、新機能や改善を頻繁に提供できます。

ITILとアジャイルの違い

ITIL とアジャイルは、どちらもITサービス管理やソフトウェア開発で使われるフレームワークですが、目的や適用範囲などに違いがあります。

ITIL アジャイル
目的 安定的なITサービス提供 迅速で柔軟なソフトウェア開発
提供範囲 ITサービス全体 主にソフトウェア開発
開発 標準化されたプロセス 短い開発サイクルで継続的に改善
変更管理 変更の影響を評価し、慎重に適用 必要に応じて迅速に変更
リリース管理 大規模なリリースを計画的に管理 小規模なリリースを頻繁に実施
ドキュメント管理 体系的なプロセス・手順を文書化 文章よりも動作するソフトウェアを優先

ITILは、変更管理やインシデント管理を厳格に運用し、安定したITサービスの提供を目的としています。

一方、アジャイルは計画よりも柔軟性を重視し、例えばスタートアップのWebアプリ開発などに活用されます。開発途中でも仕様変更が可能であり、市場や顧客のニーズに素早く対応できる点が特徴です。

ITILとアジャイルの共通点

ITILとアジャイルは異なる目的を持つフレームワークですが、共通する考え方もあります。

顧客価値を最優先にする考え方

ITILとアジャイルはどちらも、最終的な目的は顧客に価値を提供することにあります。ITIL 4では「サービスバリューシステム」を活用し、ビジネスの成功につながるITサービスを提供します。一方、アジャイルはユーザー中心の開発を進め、迅速に価値を届けることを重視します。

継続的な改善の実施

ITIL4では「継続的改善」を重視し、ITサービスの品質向上を図ります。同様に、アジャイルでは短期間のスプリントを繰り返し、フィードバックを反映しながら改善していきます。どちらもPDCAサイクルを活用し、継続的なサービス向上を目指す点が共通しています。

柔軟な対応を可能にする仕組み

ITIL4では、プロセスよりも「プラクティス」という柔軟な運用方法を採用し、変化に適応しやすくしています。アジャイルも計画に固執せず、市場や顧客ニーズの変化に応じて柔軟に対応する考え方を持っています。

ITILとアジャイルの相乗効果

ITILとアジャイルを組み合わせることで、それぞれの長所を活かし、より効果的なITサービス管理と開発が可能になります。

ITサービスの安定性とスピードの両立

ITILの最大の強みは、ITサービスを安定して提供することです。一方で、アジャイルは素早く開発し、頻繁に改善を行うことを重視します。これらを組み合わせることで、安定性を維持しながらスピード感のある開発を実現できます。例えば、ITILの「変更管理」のルールを活かしながら、アジャイルの「スプリント」を導入すると、リスクを抑えつつ、より素早くシステムを改善することが可能になります。

継続的な改善による価値向上

ITILには「継続的改善」という考え方があり、運用中のITサービスを定期的に見直し改善します。一方、アジャイルでは「継続的デリバリー」により、新しい機能や修正を短期間で何度もリリースします。これらを組み合わせることで、システムやサービスの品質を継続的に改善しながら、変化に素早く対応できるようになります。

DevOpsとの統合でさらなる効果

ITILとアジャイルを組み合わせることで、DevOpsの導入がスムーズになります。DevOpsとは、「Development(開発)」と「Operations(運用)」を組み合わせた言葉で、開発チームと運用チームが協力しながら、より素早く高品質なソフトウェアをリリースする手法を指します。従来は、開発と運用が別々に行われていたため、リリース時の調整に時間がかかることが多くありました。DevOpsでは、この2つを連携させ、素早いリリースと安定した運用を両立することを目指します。

ITILの安定した運用管理の考え方を活かしながら、アジャイルの柔軟で迅速な開発手法を取り入れることで、システムの信頼性を維持しつつ、短いサイクルでの開発・リリースが可能になります。

まとめ

ITILとアジャイルは対立する概念と考えられがちですが、ITIL4ではアジャイルとの親和性が高まり、ITサービスの安定性とソフトウェア開発のスピードを両立することが可能になりました。ITILとアジャイルの両方を理解し、適切に活用することは、より価値の高いITサービス提供につながります。ぜひこの機会に、ITILの知識を深め、アジャイルと組み合わせた実践方法を学んでみてください。